『花巴』の酒造りの在り方も人生の真髄も、すべては故郷から学んだ

花巴

杜氏に聞くお酒造りの物語 橋本晃明さん (後編)

”酒蔵の最高製造責任者”とも言える、杜氏。

その役割は、酒造りの責任者という枠を大きく超えて、日本酒という文化を日本中、世界中に広めていく芸術家の一人とも言えるのかもしれません。

そんな、普段はなかなかお話することのできないお酒造りのプロにお会いして、お酒造りへの想いや物語をお聞きする酒小町のインタビュー企画。

日本酒通でもなかなか知らないここだけのお話を、初心者でもわかりやすく楽しめる文章でお届けしていきます。
今回は、千本桜で知られる自然豊かな奈良県の吉野に蔵をかまえ、『花巴(はなともえ)』を造る美吉野醸造の杜氏、橋本晃明さんにお話を伺いました。

杜氏に聞くお酒造りの物語 (前編)は、こちらから。

なにもない奈良という土地で学んだ、自然と寄りそう暮らし方

ーー”吉野だからこそできる酒造り”をされている橋本さんですが、自然豊かな吉野という場所で暮らす中で、大切にされていることや意識されていることは、ありますか?

橋本さん(以下、敬称略):私は生まれも育ちも、奈良の吉野です。子どもの頃からこの環境で育ったので、改めて意識することもなかったんですが、”ここにいるから、自然とここの土地に添った暮らしをしている”という感じでしょうか。

みなさんがたとえば、奈良の吉野に住むとしますよね。吉野には、何もありません。でも、この環境に寄りそって生きていくしかないと思うんです。

ーーお酒造りと同じ、ということですね。

橋本:はい、酵母菌と同じです。この土地で暮らすためには、この土地の気候や風土に合わせたお酒の造り方、生き方をしていくことが自然なことだと思うんです。

たとえば、曲がりくねっている川があるとします。あれは偶然曲がっているわけではなくて、必然性があって曲がっているわけじゃないですか。その必然性に合わせて、私たちも暮らす。

無理のない暮らし、というか、違和感のない暮らしというか。そこにあるもので暮らすことが、大切なんじゃないかと。

ーー曲がっている川をまっすぐにするのではなく、曲がっているなら曲がっている川に沿って家を建てて暮らそう、という考え方ですね。橋本さんはもともと、そのような考えを持っていらっしゃったのですか?

橋本:私も、もともとそういう考えを持っていたわけではないんですよ。大学の四年間は東京の大学に進学して暮らしていて、東京で暮らしたいなと思う時もありました。今でも営業で東京に出てくると、東京はいいなあと思うことがありますね(笑)。

でも、吉野に帰るとやっぱり落ち着くなあと。東京に出てきたからこそ、吉野の風土や気候に寄りそう酒造りの考えや、自然とともに暮らすという考えを持つようになったのかもしれませんね。

奈良・吉野は、林業や農業、修験道から自然の摂理を学べる場所

ーー橋本さんが今改めて思う、お酒造りをする上で奈良の魅力はどんなところにあると思いますか?

橋本:奈良の魅力、なんでしょうか。昔から見てきた土地なので、私自身はそこまで魅力的だと思っていないんですよね。私にとって吉野の風土や土地柄は、当たり前のことだったので。

でも、先ほどお話したような自然の流れに逆らわない、というような生き方の根本は林業や農業にはありような気がしていて。そんな林業や農業があって、修験道もあって、自然の摂理みたいなものが感じやすいことが魅力の一つなのかもしれないですね。

こういうことだったんだ、というような、すべてが人間社会に置き換えられるというか、自然と暮らしていく中で学びを得られるような気がします。

ーーもしかしたら一見、何もないように見える土地かもしれませんが、奈良は、多くの学びを得られる場所なんですね。そんな土地で造られた『花巴』に合う、おつまみを教えてください。

橋本:酸を楽しんでいただくお酒なので、発酵食品によく合うと思います。発酵の旨みに、合うんでしょうね。

私たちのお酒は、それだけで飲むとびっくりされる味かもしれませんが、お店などで料理と一緒に味わってもらうことで、おいしさを感じてもらえるお酒ではないかと思っています。

ーーちなみに、普段日本酒をあまり飲まない人にオススメする銘柄はありますか?

橋本:『花巴 水酛純米酒』です。

現代の通常の日本酒の概念では造っていないお酒なので、固定概念のない方にはオススメです。発酵のおもしろさを感じていただき、素直に日本酒のおいしさを発見できる一本だと思っています。

目指すのは、「おいしかったね」と思い出してもらえる”心に残るお酒”

ーーどんな場所や、どんなシーンで飲んでいもらいたいとお考えですか?

橋本:友人や家族と一緒にお店や家で、料理と一緒に『花巴』を飲んでいただいて、そうしたら話が弾んで、そのうちお酒の銘柄なんて忘れてしまうと思うんです。

でも、最後に「今日の料理おいしかったね、楽しかったね、お酒もおいしかったね」という風に思い出してくれればいいなと。食事の時に細かく向き合ってくれなくていいんです、その時に「おいしい」と言ってもらうよりも、楽しい時間を過ごした後に『花巴』のことを思い出してほしいんです。

最後の最後に”腑に落ちる酒”というか、”心に残るお酒”でありたいなと思っています。

ーー”心に残るお酒”、とても素敵なお話ですね。それでは最後に、日本酒を愛するすべての方にメッセージをお願いします。

橋本:今の時代は、どれを飲んでもおいしいお酒ばかりの時代です。そんな時代に日本酒を楽しむには、今まで気づかなかった新しいおいしさを発見していただくことが、日本酒の楽しみにつながると思っています。

そんな発見を『花巴』を通じて私たちと一緒にしていただき、日本酒のおいしさの幅が広がる喜びを共有できたらうれしいですね。

杜氏に聞くお酒造りの物語 (前編)は、こちらから。

企画協力

美吉野醸造株式会社

住所:〒639-3116 奈良県吉野郡吉野町六田1238番地1
電話番号:0479-86-3050
営業時間 : 9:00~17:00
Web:http://www.hanatomoe.com/

企画・執筆

取材:伊藤美咲、卯月りん、金子摩耶
執筆:金子摩耶
場所提供:ワインワークス南青山
撮影:中嶋桃子
企画:卯月りん(TwitterInstagram

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