フレッシュな日本酒『二兎』の秘密に迫る!丸石醸造の酒蔵見学

丸石醸造の前で片部さんと集合写真

愛知県岡崎市にある、江戸時代から続く老舗の蔵『丸石醸造』さん。
普段は一般公開されていませんが、今回は特別に杜氏の片部さんに蔵の中を案内していただきました。

丸石醸造さんは、伝統を守りながらも新しい挑戦を続ける蔵。その代表作が『二兎(にと)』です。“二兎追うものしか二兎を得ず” をコンセプトのもと、フレッシュでジューシーな味わいを追求しています。

おいしさの裏側には、米づくりから出荷までの徹底した温度管理と、酒造りへの熱い想いがありました。
今回は、現地でしか感じられない『二兎』の秘密をたっぷりとお届けします。

丸石醸造の歴史と今

棚に並ぶ「二兎」の瓶

丸石醸造さんでは、元禄3年から300年以上にわたって酒造りを続けてきました。「酒造」ではなく「醸造」と名がつくのは、かつては日本酒だけではなく、焼酎・味噌・みりん・醤油づくりもおこなっていたから。

しかし、太平洋戦争で蔵のほとんどを焼失。
わずかに残った味噌蔵を再築し、再び酒造りの歩みを始めたのです。

「三河武士」と「長誉」の日本酒

現在では『長誉』『三河武士』『徳川家康』などの銘柄に加え、多くのファンを持つ『二兎』まで、全17種類の日本酒を製造しています。

「愛知県以外のたくさんの人に丸石のお酒を飲んでほしい」

そんな想いから2015年に誕生したのが『二兎』です。今では国内外多くの人に愛されており、筆者もその一人。フレッシュさとみずみずしいガス感がたまりません。

一体、この味わいに仕上げるためにどんな工夫が隠されているのでしょうか。その秘密を探るべく、蔵の中を覗いてみましょう。

酒造りは田んぼから

日本酒に使われるお米の説明を聞く参加者

見学では、原料となるお米の説明から始まりました。

『二兎』には、萬歳、山田錦、愛山などの酒造好適米が使われています。さらに『三河武士』ではチヨニシキといった食用米を使うことも。

丸石醸造さんが使用するお米の一部は契約農家さんでつくられています。お米の生育の様子などを共有しながら、理想のお酒造りに向かって対話を重ねる。その姿勢からは、酒造りは蔵だけではなく、田んぼから始まっていることに気づかされました。

お米の浸漬を行う機械

まずはお米を蒸す前に水分を含ませる工程「浸漬」です。ここで気をつけるのは水の温度と時間。お米と水の温度を一緒にしないとお米が割れてしまいます。お米の品種によって水に浸す時間を変えて吸水具合を調整していきます。

連続蒸米機

最近は酒造好適米が「固い」という問題があるそうです。品種や精米歩合に応じて連続蒸米機をあえて使っているとのことでした。

“教科書通り”にはいかない難しさ

麹室の様子

麹室に足を踏み入れると、ふわりと漂うお米の甘い香り。
じんわりと熱気を感じる部屋で、種麹を振りかけられたお米がゆっくりと息づいています。

『二兎』では、麹菌の菌糸が表面だけではなく、深く中まで伸びる「突き破精(はぜ)型」を目指しているとのこと。そうすることで、麹の持つ糖化酵素をしっかりと残すことができるそうです。

枯らしの工程

さらに、味のキレや雑味に大きく影響するのが「枯らし」の工程。結露すると、雑味につながってしまいます。風をしっかり当てて丁寧に乾燥させることでキレのある味わいに。乾燥の方法ひとつで、味わいが変わるのには驚きです。

手のひらに乗せた麹米

麹米を少しいただくと――
噛めば噛むほどやさしい甘みが口の中に広がりました。温度、湿度が徹底的に管理されている中で、たしかに生きている麹菌。

麹づくりは教科書通りにはうまくいかない

と語る片部さん。

地域によって気温も湿度も違う中、どうすれば理想の日本酒に近づけるのか。たくさんの試行錯誤の積み重ねこそが、この麹米なんだな、とまだ口の中に残る甘みと一緒に感じていました。

働き方にも革新を

酒母

印象的だったのは蔵の働き方です。丸石醸造さんでは、わずか4名で酒造りをおこなっています。ここまで徹底した温度管理のためには泊まり込みは必須だろうと考えていたのですが、なんと週休2日で泊まり込みはなし。

蔵がお休みの時には麹米の温度やもろみの分析データがスマホに届き、必要な時だけ蔵へ。

「いいお酒をつくるために、つくる人もいいコンディションでいなければ」

と働く環境まで工夫を凝らす姿勢に、これからの酒蔵の可能性を感じました。

ガス感を守る-3℃のタンク

サーマルタンク

フレッシュさの一番の秘訣は本仕込からの工程にあります。
ガス感を保つためにサーマルタンクを-3℃まで冷やしていきます。温度が高くなると炭酸ガスが揮発してしまうため、低温での管理が欠かせません。

タンクの上からのぞいた様子

タンクを上から覗いてみると、ブクブクと元気に発酵するもろみ。その泡がまるで生き物の呼吸のようで、『二兎』が生きたお酒であることを実感しました。

味を左右する出荷までのケア

薮田式自動圧搾機

最新の薮田式(ヤブタ式)自動圧搾機で一気に濾過をおこない、上槽後速やかに濾過、瓶詰まで完了します。さらに、瓶詰まで極力空気に触れさせないことで品質の劣化を防ぎます。

出荷までの品質管理についての説明を聞く参加者

「搾りたての日本酒はどこもおいしい。大切なのは搾った後の品質管理」

出荷までの丁寧なケアによって、私たちの手元に届く瞬間まで搾りたてのフレッシュさが残る。『二兎』のおいしさの裏側にある、飲み手には見えない努力に心を打たれました。

お酒を低温保管できる冷蔵庫

最後に案内されたのは、300石分のお酒を低温で保管できる大きな冷蔵庫。ここから、約18か国へお酒が届けられています。

「この冷蔵庫のお酒が減っていくのが嬉しい」と笑顔で話す片部さんが印象的でした。情熱をたくさん注いで造られたお酒が、今日もどこかで誰かのグラスと心を満たしていると思うと胸があたたかくなります。

案内いただいた片部さん、貴重な経験をありがとうございました!

酒蔵見学後の至福のひととき

「酒やおおたけ」で飲む「二兎」

丸石醸造さんの見学を終えたあとは、お昼から角打ちが楽しめる『酒ゃ おおたけ』さんへ。迷わず注文したのはもちろん『二兎』。

一緒に行ったメンバーと酒蔵での体験を語りながら味わうその時間は、まさに至福のひとときでした。

『二兎』が飲める『酒ゃ おおたけ』さんについては、こちらの記事でも紹介しているのでぜひ読んでみてください。
https://saketomo.tv-aichi.co.jp/enjoy/20251006_nagoyakakuuti.html

二兎追うものしか二兎を得ず

二兎のラベルを印刷する機械

「二兎追うものしか二兎を得ず」

その言葉の通り、丸石醸造さんでは、伝統と革新の両方を追い続けています。お米づくりから出荷まで、細部にまで宿る職人の技と想い。

そのすべてが“フレッシュな一口”にギュッと凝縮されています。

お店や居酒屋で『二兎』を見かけた際には、ぜひ手に取ってみてください。製造の裏側を知って飲む一杯は、きっと格別な味わいになるはずです。

過去の酒蔵見学レポートはこちら

過去の酒蔵見学のレポートはこちらから。ぜひ目を通してみてください。

日本酒コミュニティ『酒小町』

20代から30代の「お酒の場と、交流が好き」な人たちが集まる日本酒コミュニティ『酒小町』。

「日本酒好きのあそび場」をコンセプトに、年齢も職業もバラバラの個性豊かなメンバーが混ざって乾杯する憩いの場。飲み会以外にも、日本酒について学んだり、自分たちであそびを企画したり……誰もが自分らしく楽しめるようなサードプレイスをつくっています。

『酒小町』は、毎月1日〜10日の期間にメンバー募集をしています。募集開始時にはLINEアカウントでお知らせをしているので、ぜひ登録して続報をお待ちください!

今回うかがった酒蔵

丸石醸造株式会社

住所:〒444-0015 愛知県岡崎市中町6丁目3-3
電話番号:0564-23-3333
営業時間:9時 ~ 16時
定休日:年末年始・ゴールデンウィーク・お盆
HP:https://014.co.jp/
Facebook:https://www.facebook.com/1690maru014/
Instagram:https://www.instagram.com/nitomaruishi/

酒小町制作メンバー

執筆:西本 茉里奈(X / Instagram / note
編集:渡邉 真菜(X / Instagram
企画:卯月 りん(XInstagramnote
撮影:西本 茉里奈(X / Instagram / note)、卯月 りん(XInstagramnote)、渡邉 真菜(X / Instagram

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