豊かな自然が育む味わい。福井『永平寺白龍』『花垣』酒蔵見学レポート

豊かな自然が育む味わい。福井『永平寺白龍』『花垣』酒蔵見学レポート

2025年6月、福井県内4つの蔵をめぐってきました。2024年3月に北陸新幹線が延伸し、東京から3時間で足を運べるようになった福井駅。

コシヒカリ発祥の地でもある福井県は、全国有数の米どころです。さらに、白山水系の水脈をはじめ水源が豊かなことから、おいしい日本酒を醸す30以上の酒蔵があります。

そんな福井のお酒の魅力をより深く知るため、2024年6月、酒小町メンバーで4つの酒蔵を見学してきました。

今回は『永平寺白龍』『游』を醸す吉田酒造さんと『花垣』を醸す南部酒造場さんをレポート。土地に根差した酒造りの魅力をお届けします。

▼前回の記事はこちら

※本記事で紹介する「吉田酒造」様の「吉」は、正式には「つちよし」(つちよし)表記ですが、システム上の都合により「吉」で記載しています。

美しい水田に囲まれた永平寺町の吉田酒造へ

吉田酒造・取締役営業部長の吉田祥子さんと酒小町メンバー

前回の記事で紹介した田辺酒造さんと同じ、永平寺町にある吉田酒造さん。えちぜん鉄道・越前野中駅から徒歩6分とアクセスがよく、電車での旅もおすすめです。

1806年に創業、以来「目が届く、手が届く、心が届く」酒造りを大切にしています。米作りから担い、地元の人と一緒に醸すお酒です。

今回は、取締役営業部長の吉田祥子さんに、蔵とそのまわりに広がる田んぼを案内してもらいました。

ここでしか造れない酒を生み出す「永平寺テロワール」

北島蔵の入り口

最初に訪れたのが北島蔵です。周辺には美しい水田が広がり、私たちが訪れた6月初旬には、山田錦の苗が田んぼから顔をのぞかせていました。

北島蔵の田んぼ

吉田酒造では、フランス語で“大地”や“風土”を意味する言葉である「テロワール」という考えのもと、すべて地元産の米で酒造りを行っています。

さらに日本ならではの田園風景を保全したいという想いから、田んぼの手入れや米作り全てを自社もしくは地元の契約農家で担っているのも特徴です。担い手不足で遊休化しつつあった田んぼを譲り受けて耕すことで、雇用を生み出したり、景観を美化したりすることにつなががっています。

米はすべて蔵から10㎞圏内で作付けをしていて、米作りにもまさに「目が届く、手が届く、心が届く」が表れています。

自社の田んぼの位置を説明する祥子さん
自社の田んぼの位置を説明する祥子さん

さらに、地元で生まれたものを余すことなく届けようと、製造工程で出たもみ殻を石けんにアップサイクルしています。

もみ殻のアップサイクルで作った石鹸、その1
もみ殻のアップサイクルで作った石鹸、その2

酒粕の再利用はよく聞きますが、もみ殻を使うのは米から生産する蔵ならではの取り組みだと感じました。

「てきてき」(=あるがまま)を届けたい

北島蔵のすぐ裏に位置する九頭竜川系統の水で育ったお米と、地下から汲み上げた白山の雪どけ水で仕込んだお酒が『永平寺白龍』です。2024年に『白龍』からブランド名を変更。永平寺町の米、水、風土で醸す「永平寺テロワール」を発信したいという想いがありました。

吉田酒造の日本酒やグッズ
蔵の窓から九頭竜川と田んぼが見える
蔵の窓から九頭竜川と田んぼが見える

『永平寺白龍』には、『米てきてき』『水てきてき』『土てきてき』の三種類があります。

「てきてき」(的的)とは、禅用語で「あるがまま」という意味。米・水・土の恵みをそのまま届けるお酒にしたいという想いのもと、必要以上に米を磨かない方法で造られています。

祥子さんのお話のなかで一番印象に残ったのが、「お酒だけでなく、瓶に永平寺町の景色や食文化もすべて詰めてお客様にお届けしたい」という言葉。

『てきてき』シリーズを飲むうち、不思議と永平寺町の魅力が伝わってくるようでした。

機械にできることは機械で。無理なく働き続けるための環境作り

設備の特長は、半年間の酒造りを集中して完走できるよう、身体への負担を減らしている点。麹造りなど人の手が欠かせないところに注力できるよう、数年前から重い酒母タンクやお湯を運べるハンドリフトを活用しています。

酒造りに使う機械、その1

杜氏はじめ女性スタッフなど、筋力に自信のない人でも楽になるようにと取り入れたところ、高齢のスタッフからも「腰の負担が減った」と喜ぶ声があったそうです。

酒造りに使う機械、その2

ほかにも米俵を腰の位置まで上げる機械や、麹の製造過程で、夜中も蔵に通わなくてもよいよう、スマートフォンのアプリと連携した温度計や麹の造り方を取り入れた結果、スタッフにとって「より働きやすい環境」「無理せず働き続けられる環境」になりました。

北島蔵の見学を終えたあとは、そのまま祥子さんに案内いただき、同じ永平寺町内の吉峯蔵に向かいました。

2023年に新設された吉峯蔵(きっぽうぐら)

吉峯蔵の外観

北島蔵から東に車で10分ほど向かうと見えるのが、2023年に新設されたばかりの吉峯蔵です。

香港の企業と合弁でつくられ、主に輸出用の日本酒を製造しています。

吉峯蔵周辺の田んぼ
吉峯蔵周辺の田んぼ
永平寺白龍のモチーフが掘られた井戸
永平寺白龍のモチーフが掘られた井戸

建物の外からはガラス越しに設備を見ることができ、解説パネルで酒造りの工程について詳しく知ることも可能です。

吉峯蔵の解説パネルと、外から設備を覗く酒小町メンバー

奥の階段から2階に上がると、永平寺町の自然を眺めながら試飲できる直営店「マルシェ“智”」があります。ここでしか買えない・飲めないお酒があるほか、ノンアルコールのアイスクリームなども要チェックです。

永平寺町の自然を眺めながら試飲できる、吉田酒造の直営店「マルシェ“智”」
「マルシェ“智”」のテラス席からの眺め

天気のいい日はテラス席で試飲するのも気持ちがよさそうです。

壁には、この土地の地形が大きな模型で表現されていました。

「マルシェ“智”」の壁。周辺の地形が模型で開設されている
「マルシェ“智”」の壁。周辺土地の土の開設

予約制で試飲付きの蔵見学ツアーも開催しています。

詳しくは公式HPをご確認ください。

吉田酒造・取締役営業部長の吉田祥子さんと酒小町メンバー

案内してくださった吉田祥子さん、ありがとうございました!

大野城のお膝元 『花垣』を醸す南部酒造場へ

南部酒造場の外観

最後に紹介するのは、福井県東部の大野市にある南部酒造場さんです。

蔵がある通りから西には越前大野城が見え、辺り一帯は城下町として古くから知られてきました。

蔵がある通りの中央に小さく見える越前大野城
中央に小さく見える越前大野城

南部酒造場の前身にあたる「茶の木屋」は、1733年に金物商として創業しましたが、1901年の大火を機に酒造業へと転換。以降、地元を大切にしながら、世界各地に日本酒を届けています。

蔵を訪ねると、社長の南部隆保さんが快く出迎えてくださいました。

南部酒造場の南部隆保社長と酒小町メンバー
写真右が南部社長

まず案内していただいたのは、中庭に面した和室。登録有形文化財に指定されている、歴史ある建物です。

南部酒造場の中庭に面した和室

街の歴史や酒造りのこだわりのお話を伺ったあと、隣の部屋に「貴重なものがある」と案内していただくと…そこにはなんと、建物の中に水が湧き出るスポットが!

南部酒造場の酒造りについて解説する南部隆保社長

建物の改修をしていたところ、座敷下から井戸を発見! 水が湧き出てきたのだそうです。

大野の貴重な水源だということで、このまま保全されていました。

井戸

おいしさの秘密は『水』にあった

実は大野市の市街地では「御清水(おしょうず)」と呼ばれる湧き水がいたるところで見られます。

大野市の市街地で見られる御清水

「50m掘れば水が湧き出てくる」土地と言われており、お酒もこの水で仕込んでいます。

名水百選にも選ばれている「御清水」。1000メートル級の山々に囲まれ、4本の河川が市内を流れる大野には、冬に積もった雪解け水が流れ込み、地下水のもととなっています。

この御清水は南部酒造場さんの敷地の角にもあり、飲んでみるとその冷たさと柔らかさに驚きました。年間を通して14℃ほどに保たれているそうです。

大野市の市街地で見られる御清水

南部家では代々、この湧き水を使って生活しています。

お酒の仕込み水のお風呂に入れて、沸かしたお湯でコーヒーまで飲めるとは、日本酒好きからしたらなんという贅沢でしょうか…!

その水を使って仕込むからこそ、南部社長曰く「羽二重餅のような、絹のようななめらかさ」が出せるといいます。

南部酒造場・営業の山形幸寛さんと酒小町メンバー

蔵の中は、営業の山形幸寛さんに案内していただきました。

蔵の中を案内する、南部酒造場・営業の山形幸寛さん
写真左が山形さん
麹室を案内する、南部酒造場・営業の山形幸寛さん
麹室
仕込みタンクと酒小町メンバー
仕込みタンク(お酒が入っていると思うと嬉しそうなメンバーたち)
南部酒造場が保有している、ヤブタ式の搾り機

ヤブタ式の搾り機を見て、「出た酒粕をどうしているのか」ふと疑問に思って聞いてみました。年間3トン出る酒粕を肥料として田んぼに撒いたり、奈良漬けを仕込んだりと毎年使い切っているそうです。

酒粕廃棄ゼロ、かつ、酒粕で育った米で日本酒を造るというチャレンジもされています。

“循環型”のお酒が飲める日がとても楽しみになりました。

南部酒造場の建物から見える山々(百名山荒島岳 奥に見えるのが白山)

建物から見える山々(百名山荒島岳 奥に見えるのが白山)。この山のおかげで、おいしい日本酒が造れるのですね。

熟成酒に力を入れる南部酒造場

南部酒造場では、4つのコンセプトで味わいを提供しています。

南部酒造場の日本酒のラインナップ
  • 【温】温かみを感じるお酒(純米、吟醸)
  • 【古】伝統を活かしたお酒(古酒、山廃)
  • 【知】知的好奇心が満たされるお酒(大吟醸)
  • 【新】革命を起こすお酒や季節商品(にごりやオーク樽)

時代が変わってもお客様に魅力を感じてもらえるよう、幅広いラインナップを用意しているとのこと。

なかでも力を入れているのが、熟成酒です。

1年から30年古酒、さらに古いものまで、蔵で熟成されているたくさんのお酒を見せていただきました。

南部酒造場の蔵
南部酒造場の蔵

この中にあるのはすべて熟成酒。段ボールには昭和、平成初期の数字もありました。

南部酒造場の日本酒のラインナップ

南部酒造場では定番商品として、1年~20年まで300mlサイズの飲み比べセットや30年古酒など多彩な熟成酒を取り揃えています。

3年熟成のブレンド古酒はお手頃価格で、初心者にも挑戦しやすいのが特長です。

「熟成酒の魅力をもっと広めたい」という蔵の想いが伝わってきます。

大野市の“伝道師”としての『花垣』

南部酒造場の小売店

お酒は通りに面した小売店で買うことができ、時期限定のお酒なども並びます。

従業員全員が唎酒師の資格を持っているので、好みがわからない方は相談してみてくださいね。

南部酒造場の小売店

南部社長とのお話のなかで、「水が豊かな大野市の伝道師が『花垣』なんです」という言葉がありました。

地域の想いを『花垣』が世界に届けるーーーそんな想いが、強く伝わってくる蔵でした。

南部酒造場の営業・林さん、山形さんと酒小町メンバー
写真中央左:営業・林さん、中央:山形さん

案内してくださった南部酒造場の皆さま、ありがとうございました!

五感で風土を感じる旅を

北島蔵の水田

今回訪問した蔵はいずれも、その土地でこそ生み出せる味わいを大切に造られていました。

日本酒はどれをとってもその土地らしさが出るものですが、

そこに、ありったけの地域の魅力を詰め込み、届けたい。

そしてぜひ福井の地に足を運んでほしいーーそんな想いがひしひしと伝わってきました。

福井の日本酒で水や米、空気、文化、思いを感じたら、今度はきっと福井を訪れたくなること間違いなし。ぜひ現地に足を運んで、風土を肌で感じてみてくださいね。

今回訪問した酒蔵

▼吉田酒造株式会社 北島蔵
220年の歴史がある伝統的な酒蔵。お酒の購入が可能。
住所:福井県吉田郡永平寺町北島7-22
TEL:0776-64-2015
Mail:hakuryu@jizakegura.com
営業時間:午前10:00~午後5:00
定休日:年始(1月1日~3日)

▼シンフォニー吉田酒造株式会社
吉峯蔵・直営店 マルシェ”智”
2023年設立の新蔵。蔵見学、試飲、お酒の購入、試飲が可能。
住所:福井県吉田郡永平寺町吉峰5-5
TEL:0776-63-5499
Mail:info@jizakegura.com
営業時間:午前10:00~午後5:00
定休日:年末年始(12月31日~1月3日)
公式HP:https://yoshida-brewery.jp/
Instagram:@jizakegura.hakuryu
X:@jizakegura

▼株式会社南部酒造場
住所:福井県大野市元町6-10
電話:0779-65-8900
【花垣小売店】
電話:0779-65-8700
店頭営業時間:9:00~17:00
定休日:毎週水曜日(祝日および繁忙期を除く)、1月の日曜日、年末年始(12月31日~1月5日)
公式HP:https://www.hanagaki.co.jp/
Facebook:https://www.facebook.com/sake.hanagaki/
Instagram:@hanagaki_official_1
X:@sake_hanagaki

酒小町制作メンバー

執筆・企画:石川 奈津紀(X / Instagram
編集:渡眞利 駿太(X / note
撮影:石川 奈津紀(X / Instagram)、渡邉 真菜(X / Instagram)、卯月 りん(X / Instagram / note

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