日本酒で起業したZ世代の松家優が手掛けた『Whitedrop』。伝統産業の課題に挑む
21歳で日本酒ブランド『Whitedrop』を立ち上げた株式会社Omomukiの代表・松家優(まつや すぐる)さん。
『Whitedrop』は余白をコンセプトにしており、味わいに想いを寄せることで逃れられない日常を送るミレニアル世代の心の余白を埋めていってくれます。
松家さんが、なぜ日本酒で余白を表現しようと思ったのかや『Whitedrop』製造の裏話、これからどのように日本酒業界の課題へ挑戦していくのかなどお話をお伺いしてきました。
価値のある伝統産業を若い世代にも広めたい
——高校生ながら起業を決意したきっかけは何だったのでしょうか。
高校2年生は進路について深く考える時期だと思うのですが、自分の頭の中だけでは考えが広がらないと思い、伝記や生き方の参考になる本などからアイデアを得ていました。
その中で出会ったスティーブ・ジョブスの伝記がきっかけで、自分も起業を決意しました。
IT業界でtoC向けのサービスを立ち上げることにも興味はありました。
しかし大学時代にインターンを経験し、プログラミングが自分にはあまり向いていないと感じ、IT業界で抜きん出た存在になることは難しいと判断しました。
——IT業界とギャップのある日本酒で起業しようと思ったきっかけは。
日本の伝統産業は海外進出にあたって競合優位に立ちやすいため、日本の伝統産業が根付いている地方かつ授業が全て英語で行われる秋田県の国際教養大学へ進学しました。
秋田県という土地柄もあり、日本酒に触れる機会が多くとても身近な存在でした。
酒蔵がたくさんありましたし、仲のよい米農家の方に日本酒の魅力を教えてもらいました。
日本酒に触れていると、こんなに価値のあるものなのになぜ若い世代によさを認識している人が少ないのだろうと。
言ってしまえば、口にするだけで楽しめるエンタメ性の高さがあるのに、なぜ浸透しないのだろうと疑問に思い始めたんです。
——若い世代に魅力を伝えるには、どのような点が課題だと感じましたか。
酒蔵やコアな日本酒ファンと話す中で、若い世代がとっつきにくい空気があるのではないかと感じました。
商品をアピールするときに、日本酒の知識がある方にしか伝わらない言語で一生懸命に魅力を伝えようとしてくださっていて。
一般消費者は深い知識を持っている方ばかりではないので、専門用語がたくさん散りばめられているとなかなか伝わりにくいんですよね。
——日本酒を日常へ取り入れにくいと感じてしまう場面もありますね……
日本酒業界は昔のユースケースのまま日本酒を製造・販売しているところが多い印象です。
酒販店でしか手に入らない商品があったり、質のよいものを少しずつ楽しむという飲み方に合っていなかったり。
いまの若い世代の飲酒習慣にフィットした売り出し方をすれば、もっと日本酒の魅力に気づく方が多くなるのではないかと感じました。
そんな一般消費者と日本酒業界とのギャップを埋めたいと思って生まれたのが『Whitedrop』です。
「間の文化」からインスパイアを受け余白をコンセプトに
——なぜ心の余白を、日本酒で表現しようと考えたのでしょうか。
日本酒と余白の結びつけは、日本の伝統文化から思いつきました。
日本の伝統産業は、世界にもっと価値を届けられる資産だと感じていたため、日本特有の考え方にこだわっていたんです。
余白のコンセプトは、日本特有の考え方である「間」の文化からインスパイアを受けました。
能や歌舞伎は、あえてなにも喋らない時間をつくることで演劇全体に深みを持たせているんですよね。
——日本酒と向き合いながら癒しの時間を過ごすイメージが湧いてきます。
僕は、お酒を嗜んでいるときのなにも考えない時間がとてもいい時間だと感じています。
日本酒の味わい深さは、しっかりと嗜みながら味わうことで気づけるものだと思うので、味わいに没頭するという行動が余白に繋がるなと。
昔から日本に根付いているお茶の文化も、コンセプトが似ていると思います。
あえて茶室という特別な空間で、お茶を嗜む時間を過ごすことに意味がある。
静寂でリラックスできる時間が必要とされていて、心を満たすために空白の時間を作る。
これは、つまり余白なのではないかなと。
プロダクト作りで一番苦労したパッケージ制作
——おしゃれで可愛く中身の見えないパッケージが日本酒としては斬新だと感じたのですが、なぜこのスタイルになったのでしょうか。
ビン全体でブランドのベネフィットを表現しようとこだわった結果、あえて中身を見せずに全て塗装する形になりました。
既存の日本酒プロダクトとはまったく異なるということを、ちゃんと視覚からも訴求したかったんです。
——パッケージ制作が一番苦労なさったとお伺いしましたが……
ビンと紙のパッケージを同じ色合いにしているのですが、このレベルまでビンと紙を同じ色合いにする過程が一番大変でしたね。
材質によって着色の仕方が違うので、同じ色合いを出すためのコントロールには本当に苦労しました。
デザインの雰囲気は最初から変わっていないのですが、着色の問題があり色味については何度も何度も企業やデザイナーと相談を重ねてやっと実現できました。
それから、グラデーションで心の余白が埋まっていく様子を表現しているのですが、グラデーションの塗装が施されているビンって見かけないですよね?
実は、ビンにグラデーションを再現できる企業が国内で1社しかいないほど難しい技術なんです。
企業にパッケージデザインが技術的に可能かどうか交渉する段階は、かなり大変でした。
『Whitedrop』をハブにして日本酒を広めていきたい
——日本酒業界を変えるために実践しようとしていることはありますか。
僕たちが『Whitedrop』を販売するために取り入れている技術やマーケティングは、他のIT系スタートアップと同じです。
Web技術を最大限に活用してプロダクトを届ける努力をしている部分は、日本酒業界へイノベーションを提供できると確信しています。
『Whitedrop』のECサイトでは、ユーザーがどのような行動をしてどのポイントで離脱したかを全てデータとして取得し、マーケティングに繋げていく計画です。
こうしたデータを活用することで、既存の酒蔵やITに弱い方でも『Whitedrop』をハブに日本酒を広めていけるような未来を作れたらいいなと思っています。
——『Whitedrop』について今後の展望を教えていただけますか。
日本酒自体を売りたいというよりも、日本酒を通して素晴らしい体験を提供したいんです。
単に日本酒を売るだけではこの体験を提供できなくて、専用のグラスや相性のよいフードを合わせて用意することで最低限の体験が完成されると考えています。
その一歩として、いまはオリジナルの酒器を製作中です。
まずは『Whitedrop』を通して、オンライン上で完結する素晴らしい体験を提供していきます。
ただ完全にオンラインで完結させるためには、どうしても多くのコストがかかってしまい、赤字や倒産の懸念がでてきます。
真に『Whitedrop』をマスプロダクト化するためには、オフラインであるスーパーやコンビニでも提供する場を作っていくことが必要であると考えています。
オフラインでの提供の場としては、専用のバーもいいですよね。
今後5年ほどで国内に『Whitedrop』を広め、次のステップとして海外進出も視野に入れています。
リアル店舗とECを融合して、新たなビジネスモデルを展開していきたいです。
今回紹介した『Whitedrop』
『Whitedrop』は、余白をコンセプトに贅沢な時間を楽しむためのプロダクトとして生まれました。
いままでの日本酒のイメージを、パッケージから覆すような斬新な日本酒です。
製造は、松家さんが「つくっていただくなら、ここしかない」と感じた福禄寿酒造様。
誰が飲んでも80点の味を目指したとおっしゃっており、フルーティーで華やかな味わいは至福のひとときにぴったりです。
企画協力
株式会社Omomuki
Web:https://whitedrop.jp/
Instagram:instagram.com/whitedrop_sake
Online Shop:whitedrop.jp/products/preorder
公式LINE:line.me/R/ti/p/%40173viumq
CEO 松家優
秋田県の国際教養大学在学中、若い世代と日本酒業界のギャップを埋めたいという想いから『Whitedrop』を開発。日本の伝統産業の魅力を現代の価値観に合わせ、国内外へ発信していくことを使命としている。
Twitter:https://twitter.com/SUGU_SAKE
酒小町制作メンバー
取材・執筆:佐々木彩歌(Twitter/Instagram)
企画・撮影:卯月りん(Twitter/Instagram)
編集:うりっぽ(Twitter/Instagram)