初心者でも飲みやすく!“ワイルドサイドを歩く”三芳菊のお酒造り
杜氏に聞くお酒造りの物語 馬宮亮一郎さん
”酒蔵の最高製造責任者”とも言える、杜氏。
その役割は、酒造りの責任者という枠を大きく超えて、日本酒という文化を日本中、世界中に広めていく芸術家の一人とも言えるのかもしれません。
そんな、普段はなかなかお話することのできないお酒造りのプロにお会いして、お酒造りへの想いや物語をお聞きする酒小町のインタビュー企画。
日本酒通でもなかなか知らないここだけのお話を、初心者でもわかりやすく楽しめる文章でお届けしていきます。
今回は、キャッチーな名前やかわいいラベルでたくさんのファンがいらっしゃる四国の東に面した徳島にある三芳菊酒造の社長であり、杜氏でもある馬宮亮一郎さんにお話を伺いました。
また、この8月に二十歳を迎えた、ワインワークス南青山のスタッフの一人でもある、馬宮さんの次女、織絵さんのプチインタビューも。
ぜひ、お酒を片手にお楽しみください。
音楽をやりたくて東京へ。レコード屋でアルバイトをしていた日々
ーはじめまして、酒小町の卯月、伊藤と申します。三芳菊さんがどんな酒蔵なのか、馬宮さんがどのように杜氏になられたのかを、教えてください。
馬宮さん(以下、敬称略):もともと私は後継ぎになる予定もなくて、お酒にもあまり興味がありませんでした。大学進学と同時に音楽がやりたくて上京して、レコード屋でバイトをしていたんです。卒業後もレコード屋で働いていましたが、実家の経営が厳しいと聞いて帰りました。
後を継がずにちゃんと就職しろと言われていましたが、自分が後を継ごうと決めました。私はお酒を全然飲んでおらず、周りも飲まない人が多かったので、どうしたらそういう人にも飲んでもらえるかを日々考えました。
従来の日本酒はお客さんも知識がある人が多く、造り手も農大出身の人が多くて、すでにコミュニティができていて。どれもおいしいお酒ばかりなんですが、私から見るとどれも同じような味に感じてしまったんです。日本酒好きのためのお酒という感じで。
そこで、杜氏さんを雇う代わりにお酒を造るためのお米を買って、従来の日本酒とは異なる、私らしいお酒を造ることにしました。日本酒好きに好まれる一般的な良いお酒は世の中にいっぱいあるので、違うベクトルでいこうと思ったんです。
ーー先入観がない馬宮さんだからこそ造れる日本酒だったんですね。三芳菊さんの日本酒は、ラベルもかわいらしくて魅力的です。
馬宮:日本酒を普段飲まない人や、苦手意識を持っている人にとっては、日本酒通が好むような味わいはチャレンジしにくい。なので、ふりきった味わいのお酒を造るようになりました。そのお酒に一般的なラベルを貼って売ると、日本酒に詳しいお客様から「これは日本酒ではない」とクレームになってしまうこともありました。
そこで、中身の味に合わせてラベルもひと味変わったものにしてあります。
「ラベルの絵を描きたい」多くの人の好意に支えられ増えていったラベル
ーーたしかに一瞬見ただけだと、日本酒だと気づかないかもしれません。どんどんかわいいラベルが増えていますよね。
馬宮:最初の頃は、ギターを持った女の子のイラストを描いたラベルが多かったんです。長女がドラムをやっていたこともあり、僕のバンドメンバーがアニメ『けいおん!』のイメージで描いたものが好評で、シリーズ化していきました。
他にもラベルの絵を描きたいと言ってくれる人が増えていきましたが、実は仕事として絵を描いている人はいなくて、みんな好意で描いてくれているんですよ。
イラストを描いてもらう時は、 お酒のイメージを伝えてから描いてもらっているので、中身とラベルのイメージが合っていると思います。あとは、次女が書道をやっているのでラベルの字を書いてくれることもありますね。
ーーそうなんですね、素敵なラベルばかりなのでプロの方にお願いしているのかと思っていました!馬宮さんを筆頭に三芳菊さんは、本当にたくさんの方に愛されているんですね。
東京を一週間まわって、一本も売れない日が続いたこともあった
ーー娘さんのお話が出ましたが、三人姉妹とお聞きしています。お酒のイベントのお手伝いもされているとのことですが、何かきっかけがあったのですか?
馬宮:早朝や夜中の作業が多かったので、学校へ行く前などに小学生のときから手伝ってもらっていました。今では販売会などのイベントも、娘がいるときのほうが人が集まりますね(笑)。酒蔵と家の場所が同じなので、今もその延長で手伝ってもらっています。
ーー小さいときからずっと、お手伝いされていたのですね。
馬宮:娘たちがまだ幼稚園生くらいだった頃の話ですが、東京へお酒を売りに行って一週間くらい家を空けることがよくありました。小さかった娘たちは、何だろうと思うんでしょうね。そうして東京から帰ると、「お父さん、お酒売れた?」と笑顔で聞いてくる。
まさか「一週間まわって、一本も売れなかった」なんて、言えないじゃないですか。だから「たくさん売れたよ、うちのお酒は東京で人気があるんだよ」と嘘をついていたんです。毎回聞いてくるので、毎回嘘をついていました。
それが何年も続きましたが、娘のことを考えたらめげずに頑張ろうと思えました。そのときのことを忘れず、常に今までにないものにチャレンジしていきたいですね。
ーーそんなエピソードがあったんですね、なんだか心があたたかくなりました。三芳菊さんのお酒は、三人の娘さんを含め、ご家族みんなの愛がこもったお酒なんですね。
馬宮:娘が幼稚園生のときに、劇でピーターパンをやったんです。それで、海賊たちがペットボトルのお酒を飲むシーンがあって。そのペットボトルに、なんと「みよしきく」と書いてあったんですよ。
海賊だから、きっと日本酒は飲まないと思うんですが(笑)。娘たちにとってお酒と言えば、“三芳菊の日本酒”というイメージだったんでしょうね。嬉しくて、その時のペットボトルは娘の分だけでなく、その他の子の分ももらってきてしまいました。
ーー家族愛あふれる感動的なお話…。ありがとうございます、今後三芳菊のお酒を飲むたびにそのエピソードを思い出して顔がほころびそうです。
日本酒に難しい知識は必要ない。もっと気軽に飲んでほしい
ーー最後に、日本酒を愛するすべての方に向けて、伝えたいことやメッセージをお願いします。
馬宮:もっと気軽に、飲んでほしいですね。日本酒は、全然難しくないです。お酒造りは奥が深いし、語りだしたら止まらない方もいらっしゃいます。でも、うんちくは味に関係ないですし、お酒造りの過程も関係ない。そのお酒がおいしいか、おいしくないかだけです。
ーー日本酒初心者にとっても心強いメッセージをありがとうございます!
音楽が好きなのは、毎日お父さんのレコードを聞いているから
ーー次に、この8月に二十歳の誕生日を迎えたばかりの次女の織絵さんにお聞きしたいと思います。
ーー人生で初めて味わうお酒の味は、いかがでしたか?
織絵さん(以下、敬称略):初めての味がしておいしかったです(笑)。
ーーお父さんの印象的なエピソードはありますか?
織絵:実家のお父さんの部屋がレコードだらけで、お父さんはずっと音楽を聴いていますね。私も好きなアーティストのレコードをもらったりしています。
ーーお父さんの好きなところは、どんなところですか?
織絵:とっても優しいところです。最近、お気に入りのイヤホンを販売会のイベントのときになくしてしまって。それを言ったら、お店で同じものを探して、すぐに新しいのを買ってきてくれたんです。
ーー馬宮さんの優しさとお二人の仲の良さが伝わってきますね。当日は織絵さんのお誕生日パーティも。ケーキの写真を撮る織絵さんの写真を撮る馬宮さんがとても印象的でした。馬宮さん、織絵さん、本日はありがとうございました。
企画協力
三芳菊酒造
住所:〒778-0003 徳島県三好市池田町サラダ1661
電話番号:0883-72-0053
https://miyoshikiku.shop/
企画・執筆
取材:伊藤美咲、卯月りん、金子摩耶
執筆:伊藤美咲
撮影:金子摩耶
場所提供:ワインワークス南青山
企画:卯月りん(Twitter/Instagram)