福井のお酒をめぐる旅!『北の庄』『越前岬』酒蔵見学レポート

2024年3月に北陸新幹線が延伸し、東京から3時間で足を運べるようになった福井駅。コシヒカリ発祥の地でもある福井県は、全国有数の米どころです。さらに、白山水系の水脈をはじめ水源が豊かなことから、おいしい日本酒を醸す30以上の酒蔵があります。
そんな福井のお酒の魅力をより深く知るため、2024年6月、酒小町メンバーで4つの酒蔵を見学してきました。
今回はレポートの前編として、『北の庄』『富成喜』を醸す舟木酒造さんと、『越前岬』『優勝』を醸す田辺酒造さんを紹介します。
福井駅から車で15分、『北の庄』を醸す舟木酒造へ

福井市東部・大和田地区にある舟木酒造さん。福井駅から車で15分ほどの位置にあり、バスと徒歩でもアクセスが可能です。
蔵の北側には霊峰白山を源とする「九頭竜川」が流れ、その伏流水を150メートルの地下から汲み上げて仕込み水に使っています。年間300石ほどを丁寧に醸す酒蔵です。
蔵の中を専務取締役・舟木崇さんにご案内いただき、おいしさの秘訣を聞きました。

多様な米を使った多彩な味わいの酒造り
舟木酒造さんのお酒の特長は、お料理に寄り添った味わいであること。9種類の米を使い分け、それぞれの米の性質や味わいとのバランスを丁寧に組み立てることで、いろいろなお料理にぴったりの食中酒として魅力的なお酒に仕上げています。
蔵の中で長年使われてきた、一斗瓶や槽(ふね)、米を運ぶ設備なども見せていただきました。

昔ながらの一斗瓶がたくさん。

実際に使われている槽を見ながら、搾りについて説明していただきました。

米を運ぶ設備。てこの原理を使って2階まで楽々運びます。

奥にあるのは麹室(製麹を行う部屋)の扉。造りを行っていない期間でも、見学時は写真を使いながら丁寧に案内してくださいます。
こだわりの酒造好適米「神力」
酒造りに使うお米は、さかほまれ、山田錦、吟吹雪、神力、いちほまれ、五百万石、九頭竜、越の雫、華越前の9種類。
なかでも、かつて日本三大品種であった酒米「神力(しんりき)」は、品種改良のなか一度姿を消してしまったお米で、“幻の酒米”とも呼ばれています。

60%まで磨いた神力。「神力使用 富成喜」に使われています。
舟木酒造さんでは、地域の契約農家さんに生産してもらった神力を使い、旨味のある力強いお酒に仕上げています。
直売所で試飲して、お気に入りを見つけよう

見学に加え利き酒コーナーでの試飲もできます(料金は要問合せ)。
今回は、舟木さんおすすめの定番のお酒を中心に試飲させていただきました。
お話の中で印象的だったのが「いろいろなお食事があるのだから、いろいろな味わいのお酒があったほうが良い」という言葉。米の種類が多い分仕込みは大変ですが、食卓を囲むお客さんへの想いがあるのだと感じました。
試飲したお酒はどれも「お食事と合わせてみたい!」と思うものばかりで、蔵人さんたちのこだわりがしっかりと味に表れていました。

舟木酒造さんでは、日本酒だけでなく、地元のブルーベリーを使った「和リキュール ブルーベリー酒」や、木田産しそを使用した「和リキュール しそびより」など、リキュールの製造も行っています。

途中で舟木さんが出してくれた、こちらの仕込み水。
地下150mから汲み上げており、九頭竜川の伏流水ということもありとても綺麗でなめらか、おいしいお水でした。
舟木さん、ご案内いただきありがとうございました!
『越前岬』『優勝』を醸す田辺酒造へ

続いて紹介するのは舟木酒造さんから車で10分ほど、永平寺町にある田辺酒造さん。えちぜん鉄道「観音町駅」下車、徒歩2分の距離にあり、福井駅からは約15分で訪れることができます。福井駅からえちぜん鉄道で向かう鉄道旅もおすすめです。
代表取締役の田邊啓朗(たなべ・ひろあき)さんが出迎えてくださいました。


2台の和釜を使った「蒸し」工程

まず見せていただいたのは、お米を蒸す場所。
日本酒造りでは米を炊くのではなく「蒸す」作業がありますが、そこで使うのが2台の大きな和釜です。

毎朝蒸しあがるお米の香りとともに、その日の酒造りが始まります。夏の間はここから窯を一度引き上げてメンテナンスし、丁寧に使い続けているのだそうです。
電車の音を聞いて育つ麹
さらに奥に行くと目に入るのが麹室(左側の白い扉)。
「実はめずらしい光景が見られるんですよ」と言いながら、田邊さんがすぐそばのシャッターを開けると、そこには線路が。


位置関係を説明する田邊さん。
私たちが見学していると、ちょうどえちぜん鉄道の電車が通る時刻に。手を振って見送らせてもらいました。こんなに間近で見られるとは、鉄道好きにはたまらない光景かもしれません。

すぐそこには電車が! 駅が近いので、ゆっくり走る電車を眺めることができます。
さらに、いつも田邊さんが仕込みタンクを混ぜる「櫂入れ(かいいれ)」の作業をしていると、毎朝窓から電車の乗客と目が合うのだそうです。なんともほっこりするエピソードもお聞きすることができました。
音楽を聴きながら醸される日本酒は聞いたことがありますが「電車の走る音を聞きながら醸される日本酒」には初めて出会いました。
少量を丁寧に醸し続ける
年間270石程度の酒を醸す田辺酒造さんでは、昔ながらの設備や手仕事を大切にされています。
25本の仕込みタンクのお酒を搾るのは、すべてこの槽と呼ばれる機械。

現代の酒造りで最も一般的な搾り方は、「ヤブタ式」と呼ばれる自動圧搾ろ過機を使う方法。
それに対して、この佐瀬式の槽を用いた搾り方は、人の作業が多く、倍以上の時間がかかります。ただ、ゆっくりと搾る分、口当たりの優しい澄んだ味わいになるとも言われているのです。
大吟醸から本醸造までを基本的にこの槽で搾っているというなんとも贅沢な工程はとても珍しく、田辺酒造さんの“想い”が感じられました。
歴史を感じられる角打ちスペース

最後に案内していただいた角打ちコーナーは、2024年リニューアルされたばかり。500円で、5~7種類の少量ずつの試飲が可能です。

かつて実際に使われていたという台帳や机も見せていただきました。
昔は酒蔵から直接お酒を買って帰り、晩酌で飲むという時代がたしかにあったのですね。

看板犬の猪口(ちょこ)ちゃんが出迎えてくれました。
目の届く商いを大切に

田辺酒造さんでは、あえて海外への積極的な展開は行っていません。それは、いつものお客様に飲んでほしい、目の届く場所で飲んでほしいという理由からだそうです。
海外で人気が高まったら、その分地元や国内への供給は減ってしまいます。
地元の水と米を使い、丹精込めて丁寧に醸したお酒が届くのを最後まで見届けたい、そんな想いがこもっているようでした。

田邊さん、ご案内いただきありがとうございました!
気になったら直接蔵見学へ!
今回ご紹介した舟木酒造さん、田辺酒造さんはいずれも蔵見学が可能です。
気になった方はぜひ予約のうえ、見学してみてくださいね。
なお、福井県内の酒蔵では「福井酒蔵ある記」というスタンプラリーイベントも開催中です。これを機にぜひ福井に足を運んでみてはいかがでしょうか。
次回は、永平寺町の吉田酒造さん、大野市の南部酒造場さんをご紹介します。
今回訪問した酒蔵
▼舟木酒造合資会社
住所:福井県福井市大和田町46の3の1
電話番号:0776-54-2323
メール:info@funaki-sake.com
営業時間:午前9:00~午後5:00
定休日:日・祝日
HP:https://www.funaki-sake.com/
Facebook:https://www.facebook.com/funakishuzo/
Instagram:@funakisake
▼田辺酒造有限会社
住所:福井県吉田郡永平寺町松岡芝原2丁目24
電話番号:0776-61-0029
メール:info@echizenmisaki.com
営業時間:平日 午前9:00~午後6:00 / 土日・祝 午前9:00~午後5:00
HP:https://echizenmisaki.com/
Facebook:https://www.facebook.com/tanabeshuzo
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酒小町制作メンバー
執筆・企画:石川 奈津紀(X / Instagram)
編集:渡眞利 駿太(X / note)
撮影:石川 奈津紀(X / Instagram)、渡邉 真菜(X / Instagram)、卯月 りん(X / Instagram / note)