「世界の食卓に酔鯨を」代表が見据える “日本酒の未来”

「Enjoy SAKE Life」をテーマに掲げる酔鯨酒造株式会社は、革新的なイベントや企画で日本酒業界に新たな風を吹き入れる存在です。

昨年では錦戸亮さんと赤西仁さんの共同YouTubeチャンネル『NO GOOD TV』とコラボした、オリジナルラベルの『酔鯨 純米大吟醸 弥』の限定販売も話題になりました。(※販売はすでに終了しています)

オリジナルラベルデザインを考案する様子を公開した『NO GOOD TV』

素晴らしい日本酒を造っても、飲んでもらえなければ意味がありません。
酔鯨酒造株式会社は味わいや品質を追求しながらも、日本酒の美味しさや楽しさを広めるための活動を積極的におこなっています。

酔鯨ブランドを牽引する、代表取締役の大倉広邦さんにお話をうかがいました

酔鯨酒造株式会社
代表取締役 大倉広邦さん

学生時代は地酒・ワイン専門店でアルバイト。2002年大手ビール会社に入社、11年間在籍し、首都圏、名古屋でチェーン料飲店営業、生産関連などを経験。2013年5月に酔鯨酒造入社。2016年、酔鯨酒造の4代目代表取締役社長に就任。現在、全世界に酔鯨ブランドを広めるべく活動中。
引用・出典:酔鯨酒造株式会社公式サイト

入社のきっかけは、酔鯨の価値を守るため

ーーー代表になる前は、大手のビール会社にお勤めだったとのことですが、はじめから酔鯨に入社しなかった理由はあるんでしょうか?

大倉:酔鯨の代表だった祖父が大好きで、学生時代も夏休みになれば酒蔵の手伝いをしていましたし、入社するのが嫌だったわけではないんです。「外の世界も体験してみたい」と思ったのが大きな理由ですね。将来的に酔鯨を継ぐつもりはあったので、同じ酒類業界であるビール会社に就職しました。そこでの経験を、酔鯨で活かせたらと思ったんです。

ーーー酔鯨の将来を考えての就職だったんですね。ビール会社を辞めて跡を継いだきっかけは何かありましたか?

大倉:丹精込めて造られたお酒が、きちんとした保存方法を伝えずに販売されていると知ったのがきっかけですね。日本酒に想い入れのある、素敵な酒販店様や飲食店様はどんどん離れていると聞いて、悲しくて悔しくて…。一生懸命に酒造りをしてくれている従業員のみなさんにも申し訳ないし、祖父が築いてきた酔鯨の価値も下がってしまう。この現状を何とかしたいと強く思って、入社を決意しました。

味わいも価格帯もさまざまな酔鯨の日本酒

ーーー悲しいお話ですが、大倉さんの日本酒への想いが伝わってきます。入社してからは、どのような取り組みをされたのでしょうか?

大倉:まずは「温度管理をきちんとしてくれる酒販店と飲食店に限って取引をする」というのは徹底しました。あとはロゴの変更ですね。以前は、こちらのようなラベルデザインがメインでした。


ーーーかなりクラシックな印象ですね。

大倉:日本酒の海外展開を考えたときに、このデザインでは難しいなと感じたんです。漢字は海外の方に人気がありますが、どれも同じに見えてしまうみたいで区別がつかないんですよね。それで、見てすぐに「酔鯨だ」とわかるロゴの制作を開始しました。

ーーーたしかに、私も海外のワインボトルがどれも同じに見えてしまいます。

大倉:最初は海外限定ラベルも考えたのですが、うちみたいな小さい会社はラベルの種類をいろいろつくるのは難しいんです。コストもかかりますし、ラベルの取り違えが起きる可能性があるので。現在は『ホエールテール』はちょっとプレミアムなお酒に、くじらの全体像が入っているものは比較的リーズナブルに飲んでいただけるお酒として分けています。

大切な「最初の一口」を嫌な思い出にしない

ーーープレミアムなお酒とリーズナブルなお酒というお話が出ましたが、HIGH END COLLECTIONの20,000円以上するお酒から1,000円台で買えるお酒まで、酔鯨さんの造るお酒は本当に幅が広いですよね。ここまで揃えている酒蔵さんは珍しいと思うのですが、どういった狙いがあるのでしょうか?

HIGH END COLLECTION

大倉:例えばワインやウイスキー、ビールなどのお酒って、どの銘柄を飲んでも一定レベル以上には美味しいと思うんです。安い居酒屋さんに行って「とりあえず」で頼んでも、それなりにちゃんと美味しいと思えるものが出てきますよね。でも、日本酒はそう思ってもらえないことが多いと感じていて。

ーーーそうですね。居酒屋さんの飲み放題で「清酒、日本酒」とだけ書かれた日本酒を飲んで「日本酒はまずい」と決めつけてしまう方は多いと感じています。私自身もそうでした。

大倉:日本酒ファンが増えないのは、どんな場面でも安定して美味しいものを提供できていないからだと思うんです。日本酒の価値や地位を高めるために、とことんこだわり抜いたハイエンドなお酒も造りますが、安くてもちゃんと美味しいお酒もきちんと造っていきます。日本酒の未来を守るためには、若い方にも日本酒を飲んでもらわないといけないので。最初の一口を嫌な思い出にしないために頑張っています

ーーー日本酒の間口を広げるため、そして最初に飲む日本酒のレベルを底上げするために、幅広い価格帯のお酒を造っているんですね。

大倉:国内の日本酒の消費量は何年落ち込んでいて、30年から40年後には今の1/3になると言われているんです。もちろん出荷量も消費量に応じて減っているので、残念ながら廃業される酒蔵さんもいらっしゃいます。消費量を増やすには日本酒ファンを増やすしかありません。酔鯨として一人勝ちしたいわけではなく、日本酒業界全体が活性化するにはどうしたらいいか常に考えています。

ーーー日本酒業界全体を考えての取り組み、とても素晴らしいです。ユニクロやアーティストの方とのコラボや、海外メディアを招いての船上パーティーといった活動も、日本酒業界の活性化に繋がっていると思います。

大倉:チャラいと言われることもあるんですけどね(笑)。とにかく間口を広げて、一口でもいいから飲んでいただく機会を増やしたいという気持ちでやっています。酔鯨だけではなく「日本酒って美味しそう、楽しそう」と思ってもらえたら嬉しいですね。当然、もともと日本酒が好きな方も大切にしているつもりです!日本酒ファンが増えて日本酒業界が元気になればもっと美味しいお酒が造れますので、既存の日本酒ファンの方にとってもよい変化だと思います。

美味しいのは当たり前!サイズや容器もニーズを反映する

ーーー酔鯨さんは一合瓶の飲み比べセットを出していますが、それも間口を広げることにつながっていると感じます。初心者が手に取りやすいですよね。

大倉:1日で飲み切ると想定した場合、品質を重視すれば一升瓶で飲むのが一番です。ただ、ご自宅で一升瓶というのはなかなか手が出しづらいですし、初めて飲むお酒なら尚更ハードルが高いですよね。まずはお試しで、軽い気持ちで手に取ってもらいたくて一合瓶を揃えたセットをつくりました。どうしてもコストがかかるので、お客様側のハードルが下がったぶん酒蔵側のハードルは上がるんですが(笑)。正直言って一合瓶での利益はありません。でも、それ以上の価値があると信じてつくっています!

一合瓶のセット/出典:Amazon

ーーー日本酒初心者もそうですし、日本酒ファンとしてもいろいろ飲んで好きなお酒を見つけたいという気持ちがあるので、一合瓶のお酒をつくってくださるのは非常に有難いです。

大倉:「味がわからない状態で大きいサイズを買うのは不安」というのは前提としてあると思うんですが、重さも結構ネックになっているのかなと考えています。もっと手軽に持ち運びできるもので、品質も保持できるもの。瓶にこだわらずに容器にもこだわっていこうと、今いろいろと考え中なんです。

ーーーお酒の品質だけでなく、容器の品質や可能性も追求していくんですね。

大倉:現行の酔鯨のボトルは、ほぼ黒か茶色なんです。日光を透過する度合いを調べていったら、白や水色では品質に影響が出てしまうくらいの結果が出てしまって。涼しげな透明のボトルなんかもやってみたいんですが、それで諦めました。味わい品質はもちろん、容器もどんどんブラッシュアップしていきたいので試行錯誤しています。

ーーー品質を保つためのボトルカラーだったとは知りませんでした。

大倉:どれだけ間口を広げても品質がおざなりになってしまっては本末転倒なので、品質管理には非常に気を使っているんです。製造時はもちろん、酒販店や飲食点での管理体制もそうですし、流通経路にも細心の注意をはらっています。

いつでも最高の酔鯨を。徹底した品質管理

ーーー品質管理の面で言うと、コンビニに酔鯨のお酒が並ぶのは難しいでしょうか?

大倉:吟醸酒や大吟醸酒などの繊細なお酒は、流通経路や保管場所の問題もあるので少し難しいかなと思います。でも今後はコンビニでの販路も広げていきたいですね。きちんと冷蔵で保管していただくとか、しっかりした管理体制はお願いしていきますが、やはり気軽に買い物をする場所としてコンビニ以上の場所はないと思うので。東京の冷蔵保管に力をいれてくださっている一部の店舗では酔鯨がご購入いただけます。

鯨 特別純米酒』/出典:酔鯨酒造公式サイト

ーーー間口を広げるための販路として、コンビニは強そうですよね。

大倉:もちろん酔鯨を扱ってくださる酒販店さんも増やしていきたいんですが、新たな日本酒ファンを獲得するためにコンビニは外せない存在だと思っています。少し日本酒に興味を持ったとしても、いきなり酒販店に行くのは勇気がいりますよね。

ーーーたしかに日本酒がかなり好きな方じゃないと、酒販店まではなかなか行かないと思います。

大倉:日本酒を飲んだことがない方、少し興味があるくらいの方に、まずはコンビニで酔鯨の味を知っていただきたいですね。「意外と美味しいな」と思ってもらえたら、酒販店にも足が向くんじゃないかと思うんです。コンビニで売っているお酒よりも、遥かに美味しいお酒がありますから。

ーーー買い物のついでにコンビニやスーパーで買った日本酒が美味しかったら「コンビニに売っているレベルでこれだけ美味しいってすごい!ちゃんとしたお店ならもっと美味しいお酒が買えそう!」と思ってもらえますよね。

大倉:それがまさに理想の流れですね。酔鯨を扱ってくださるコンビニと酒販店を、今後はもっと増やしていきたいです。酔鯨を買おうと思って行ったのに、取り扱っていなかったら機会損失になってしまうので。

ーーー酔鯨さんのスマホアプリ『SUIGEI MAP』を使ってみたのですが、酔鯨が飲めるお店と買えるお店が簡単に検索できて、とても画期的だと思いました。機会損失はかなり防げそうですよね

『SUIGEI MAP』
iOS版Android版

SUIGEI MAPで検索した画面。右が「飲める店」/左が「買える店」

大倉:ありがとうございます!そうですね。まずはアプリを入れていただくハードルがありますが(笑)。表示された店舗に酔鯨がなかったら、メールで報告もできます。

体験を届けたい!酒蔵がコロナ禍にできること

ーーーせっかくアプリで酔鯨が飲めるお店が表示されても、今は飲みに行くのも難しい世の中ですよね。

大倉:そうですね。以前は「お客様との絆をつくる」をテーマに『SUIGEI E.S.L Event(E.S.L会)』という体験型コミュニティイベントを開催していたのですが、思うような活動ができない現状にもどかしさを感じています。

ーーー東京や大阪、京都などの国内だけでなく、ニューヨーク、パリ、ベルリンといった世界の都市でも開催されていましたよね。

出典:『SUIGEI E.S.L Event(E.S.L会)』公式サイト

大倉:今はオンラインでのイベントも増えましたが、想いや熱量を伝えきれない部分はどうしてもありますね。日本酒の美味しさと楽しさを理解していただくには、やはりリアルなコミュケーションが大切だと痛感しました。現状を嘆いていても前に進めないので、今はオンラインショップに力を入れています。

ーーー酒蔵さんのオンラインショップはお酒だけを扱っているケースが多いと思うのですが、酔鯨さんはおつまみも扱っていますよね。おつまみの域を超えたカツオのお刺身まであってびっくりしました。

大倉:お酒だけの販売は酒販店さんがしっかりやってくださるので、おまかせしています。酔鯨のオンラインショップでは、土佐の料理と酔鯨を一緒に楽しんでいただく “体験” をお届けしたくて始めました。味や価格にもしっかりこだわっています!

ーーー価格設定を間違えているのかと思うくらいお安いですよね。カツオのセットが8,800円で、最初は「ちょっと高いかな」と思ったんですが、とれたての新鮮なカツオが2〜3人前も届くと書いてあってびっくりしました。しかも720ml、四合瓶の純米吟醸酒がついてくるっていう。

大倉:従業員の知り合いの漁師さんが、とれたてのを魚を低価格で提供してくださるんです。カツオはその価格ですが、以前は送料込み3,000円で3匹の魚とセットっていうのもありましたね。鯛とかも入っているのでかなりお得だったと思います。

ーーー旅行に行けなくても新鮮な高知の食材を味わいながら酔鯨が飲めるなんて、素晴らしい体験ですね。

大倉:高知県限定の産直サイトみたいですよね(笑)。飲食店さんが今は営業できないので、漁師さんたちも卸し先がなくて困っているんです。高知の素晴らしい食材を無駄にしないためにも、高知の魅力を体感していただくためにも「力を合わせて一緒にやっていきましょう」という流れで、日本酒と食のセットを販売する体験型のオンラインショップを始めました。高知県の作家さんが描いた絵本や、酔鯨のロゴグッズも販売しています。

ブランドを支える「酔鯨愛」とフットワーク

ーーー酔鯨さんのオンラインショップ、とても綺麗で見やすいですよね。SUIGEI JOURNALもシンプルなのにおしゃれで素敵です。

大倉:実は全然お金かかってないんですよ。オンラインショップもSUIGEI JOURNALも従業員が頑張ってくれていて。先ほどのアプリも従業員がつくってくれました。写真だけはちゃんと撮っているんですけど、あとはもう従業員の頑張りだけで回っています(笑)。

毎月刊行される情報誌『SUIGEI JOURNAL』

ーーーアプリ開発もジャーナルの運用も、酔鯨さんだけで完結しているとは思いませんでした!多才な従業員さんが多いんですね。

大倉:さらに美味しい酔鯨を造るために建てた土佐蔵に売り上げ以上の投資をしたので、正直あんまりお金がないんです(笑)。だから、もうみんなでがんばるしかない!って感じですね。この令和の時代に昭和チックな会社なんです。従業員だけでなく知り合いの知り合いにお願いして、安く撮影していただいたり食材を提供していただいたり、本当にまわりのみなさんに生かされています。感謝しかないですね。

出典:酔鯨公式サイト『酔鯨の蔵

ーーー昭和チックというか、みなさん酔鯨愛が強いんだなと感じました。従業員さんはお若い方が多いんでしょうか?

大倉:従業員は50名くらいで、一番多いのは30代後半ですね。僕が入社したり代表になったりのタイミングで従業員も世代交代があったので、比較的若い酒蔵かなと思います。最年長の工場責任者でも52歳で、男女比率は半々くらいです。

ーーー何かをやろうっていうときにフットワークが軽いのもそうなんですけど、InstagramYouTubeも使いこなしている印象があったので、お若い方が多いのかなと思いました。

大倉:従業員の頑張りのおかげで多角的に広報活動はできていると思うんですが、まだまだ酔鯨を知らない方も多いので、今後どう動いていくかは常に考えています。たくさんあるお酒の中から、どうやったら日本酒を飲んでもらえるのか。そして日本酒の中から酔鯨を選んでもらうにはどうしたらいいのかっていうのは、きっと永遠の課題ですね。

高知から全国、そして世界へ

ーーー今後の酔鯨として目指すところ、目標があれば教えてください。

大倉:今の酔鯨のシェアは首都圏が半分くらいを占めているんですが、もっと全国に広げていきたいですね。最終的に目指すゴールは世界中の食卓に、酔鯨を届けること。そしてブルゴーニュやシャンパーニュのように「その土地で造られたお酒が好きだから」という理由で、高知県に来てもらえる日本酒を造るのが目標です。

これからも頼もしい従業員たちと一緒に、美味しいお酒と楽しい体験を届けるためにがんばります!

左からSUIGEI JOURNALを制作する佐野さん/代表の大倉さん/広報でYouTubeにも出演している栗田さん

酔鯨の新しい発信のチャレンジ、YouTube

それでは最後に、酔鯨酒造が2021年8月から新しい発信のチャレンジとしてはじめたYouTubeをご紹介。

日本酒の美味しさ、楽しさをひとりでも多くの人に知ってほしい!という想いから、酔鯨酒造の YouTube チャンネルを開設されました。このチャンネルでは、取材にも対応いただいた酔鯨酒造で働く日本酒大好きな栗田英里子さんが、様々な挑戦を通して一人前の日本酒女子へと成長していく物語となっています。週に一回、毎週金曜日に動画をアップしているので、ぜひご覧になってみてくださいね!

酒蔵で働く日本酒女子の家呑み語り!

検証!日本酒でBBQはアリなのか⁉@仁淀川

企画協力

酔鯨酒造株式会社

「最⾼のKANPAIの創造」
美味しい⽇本酒を造り、⽇本酒によって⼼が豊かになるシーンを
⼀つでも多く創造していくことが我々酔鯨の社会的な使命です。

住所:〒781-0270 高知県高知市長浜566-1
電話:088-841-4080(代表)
   088-821-8004(受注専用)
Web:suigei.co.jp
Twitter:twitter.com/vp4BlRtDrZoJJmp
Instagram:instagram.com/suigei_sake
YouTube:youtube.com/channel/UCzPSMs2teUY

酒小町制作メンバー

取材・企画:卯月りん(TwitterInstagram
執筆:成澤綾子(Twitter /Instagram



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